いんぺりさぼう

 

 

 

 

 

私たちは一たい何を待つてゐるのだらう?

それは悲劇をだらうか?

 


———堀辰雄『水族館』

 

 

 

 

 


はじめに

 ※本作は、株式会社KADOKAWAが権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

当シナリオは「クトゥルフ神話TRPG(第6版)」及び「クトゥルフと帝国」「マレウス・モンストロ ルム(以下マレモン)」「クトゥルフ2015」に対応したシナリオです。

 

セッション概要

 推奨人数:3〜4人。マスメディア、探偵、軍人(二等兵〜軍曹)それぞれ1名ずつ必須。

プレイ時間:PL会話=ボイスチャット、探索者RP=テキセで約9~10時間

シナリオ形式:シティシナリオ

舞台設定:1930~1932年頃、5月最終土曜日の帝都

 

推奨技能

・基本探索技能(三種の神器)

・戦闘技能(あればあるほど安心)

・写真術(写真術が高い探索者がいると戦闘が非常に有利になります)

・交渉技能(NPCとの会話が多いので。RPによっては全く使わないかもしれません)

 

 

1930~1932年頃、隅田川の水神祭(川開き)当日の「5月最終土曜日」の帝都がシナリオの舞台となります。

シナリオ内では日を跨ぐことはありません。

長くて短い1日を駆け抜けよう!

武器を振り回すドタバタ活劇となりますので、深いことは考えずに昭和初期の雰囲気をお楽しみ下さい。

 

 

※現代においては不適切な表現があります。ご注意下さい。

 


 

 シナリオの真相


お互いに嫉妬深く執着心があったが、深く愛し合っていた『三河ハナミ』と『K』。叶わぬ同性愛の苦しみから駆け落ちという名の心中を決行。隅田川に身投げをするが、片割れのみが死亡し、もう片方はかろうじて生き残ってしまった。死亡したのが『三河ハナミ』であり、生き残ったのが『K』である。

恋人だけを死なせてしまった罪の意識から、『K』はすぐに自殺を思い立つ。その際に、精神が衰弱した人間を好む低級邪神『星からの暗黒(マレモンP244)』に取り憑かれてしまう。星からの暗黒に取り憑かれ、完全に精神崩壊をしてしまった『K』は、死んでしまった恋人を探して帝都を徘徊する。

そんなとき、帝都を彷徨っていた女性『真珠』を発見。美しい真珠に魅入られ、真珠が喋らないのをいいことに『K』は『真珠』にかつての恋人を投影し、愛した。『真珠』は『三河ハナミ』の代理となるために『K』の勧めでカジノ・フォーリーに入団。華々しく舞台に立ち人気が出たことを当初『K』は喜んでいたが、彼女の元来の性格は非常に嫉妬深く、さらに邪神によって精神崩壊している状態だ。日に日に『真珠』がファンから渇望されることが耐えられなくなり、遂に「かつての恋人のように共に心中して完全に自分のものにしよう」と思い立ったのである。

 

詳細は各NPC欄を参照して下さい。

 


NPC

 ▼K(ケー)

「ここにいる何人の男が、あの子をモノにしたいと考えているんだろう」

 

星からの暗黒(マレモンP244)』を宿す男装の女性。大きなハンチング帽がトレードマーク。嫉妬深く、依存心と執着心が強い。本名は不明。

 三河と隅田川へ駆け落ち(心中)するが、彼女だけ死ねなかった。叶わぬ同性愛の苦しみと、恋人だけ死なせてしまった後悔から再び自殺をしてしまうが、その際に星からの暗黒に取り憑かれる。偶然見つけた真珠に陶酔しており、人間社会での生活能力がない彼女を手篭めにした。彼女は真珠を『三河の代理』に仕立て、その嫉妬深さから再び心中しようと考える。

 真珠に深く接触しようとする人物に星からの暗黒による悪夢を見せ、自傷行為をさせている。その人物に恋人がいた場合は、恋人がターゲットになる。これはK自身が「恋人が一番大切なもの」ゆえ。自身が傷つくよりも苦しいだろうと考えたのだ。

心中をする前までは中小出版社に勤めていた記者だった。

 三河ハナミ(ミカワ-)

「水のある場所には幽霊が出やすいと聞くけれど…、本当かしら?」

 

明るく元気だが、実は嫉妬深く執念深い。Kの恋人であり、同意の上で隅田川で心中を図ったが、彼女だけ死ぬ形となってしまった。

元カジノ・フォーリーの踊り子であり、後輩の踊り子たちをとても可愛がっていた良い先輩。自分の後輩となった「真珠」の身を案じ、そして「K」を隅田川へ引き摺りこむ(殺す)ために探索者たちに協力(という名の利用)をする。

 心中をする前までは長髪だった。

 真珠(シンジュ)

「……」

 

「瀬辺 久」の母親であるペトスーチ(マレモンP103)。「真珠」は芸名であり、本名は不明。顔にウロコのような特徴的なアザがある。セベク(マレモンP184)の加護を受けており、長寿。怪我をしても瞬時に治ってしまうし、死んでもすぐに生き返る。100年以上生きてるが、16歳くらいの美しい少女に見える。人間ではないので、意思を感じられない人形のような印象を持つ。

完全なペトスーチになる直前であり、人の言葉を喋れなくなっている。また人の言葉をうまく聞き取れない(聾唖者ということになる)。かろうじて筆談が可能。ペトスーチは家族と暮らすことができない性質を持っているので、息子を産んでからすぐ、夫の前から姿を消してしまった。

失踪から20数年経った現在、完全なペトスーチになる前に一度だけでも息子に会いたいと思い立つ。人とうまくコミュニケーションを取れないまま帝都をフラフラしていたところをKに拾われ、その後Kの勧めでカジノ・フォーリーに入団。カジノ・フォーリーの下階には魚がたくさんいる大きな水槽もあるので、ペトスーチの彼女が拠点にするにはもってこいだったようだ。

ちなみに、明治43年の大水害の際に久の父と出会った。

 瀬辺 久(セベ-ヒサシ)

 彼女に『逢いに行けなくてすまない』と伝えてほしいんだ

 

大日本帝国陸軍の兵士。「水馬 凛」の恋人であり、真珠の息子。母親の顔を知らずに育っており、唯一の身内である父は数年前に結核で他界。

 表情筋が硬く、よく「何を考えているかわからない」と周りから言われるが、実際何も考えていない。よく言えば素直で純粋、悪く言えば愚直で頭が悪い。ペトスーチと人間のハーフなので、一般人よりも体が丈夫。身長も180cmと、当時にしてはかなり大柄。

 顔にウロコのような特徴的なアザがある。真珠が自分とそっくりなアザを持っていたため、真珠が自分の母親と関係があるのではないか(もしかしたら妹では?)と考え、真相を確かめるためにカジノ・フォーリーへ通っていた。

 約10年前の関東大震災で怪我をした水馬を助けたのをきっかけに、彼と恋人関係になった。身内がほとんどいない瀬辺にとって、水馬はかけがえのない家族である。

 水馬 凛(ミヅマ-リン)

「平たくいえば『浮気調査』になるのでしょうか」

 

「瀬辺 久」の恋人。華奢で女々しい。丸ノ内で事務員として働いている。

約10年前の関東大震災で瀬辺と出会ってから信頼を築き、恋人関係になった。嫉妬深いが誰よりも瀬辺を大切に想っている。……が、駐屯地住まいになった瀬辺と距離ができてしまい、瀬辺の浮気を疑うこととなる。

実はとあるヤクザの組長の妾の子であり、怒るとヤクザ仕込みの荒っぽい口調になってしまう。こっちが素かもしれない。

 

★「瀬辺」と「水馬」をKPの性癖に合わせて「名前・容姿・性格」などを改変することをオススメします。非常に楽しくRPできると思います。

追っかけの男

 「一目でいいから会わせてくれよ、いいだろ!?」

 

真珠の熱心なファン。ほぼストーカーと化しており、真珠にしつこく関係を迫っていた。Kによって星からの暗黒の従者となり、探索者に襲いかかることになる。死にます。

アンリ・バンコラン

 「踊り子の調査を続けるのならば、用心するのに越したことはない。気をつけたまえ」

 

当時アメリカで出版されていた探偵小説の主人公と同じ名前を持つ探偵。本名かもしれないし偽名かもしれない。ヘビースモーカーで、いつも煙草を吸っている。美少年の恋人を持つ同性愛者だが、浮気癖がひどい。

 APP14以上の10代男性は、彼を見ると強制的に心がときめいて赤面してしまう。

 マスメディア探索者の勤める出版社の依頼で、真珠の恋人について追っていたが、自分の恋人に危険が迫った為に依頼から手を引いた。


各探索者ハンドアウト

PLさんへの探索者の選定や製作の参考に。

 

 

・マスメディア探索者用HO
土曜日だと言うのに、あなたは勤め先の出版社の上司に呼び出されてしまいます。

なんでも、浅草にある「カジノ・フォーリー」で今話題の踊り子「真珠」に、恋人がいるのではないかという噂。

この時代でも、芸能人の恋愛ゴシップ記事は人気でした。

「報酬は弾むから、休日を返上して頑張ってくれ!」とのこと

 

探偵探索者用HO
数日前に「水馬 凛(みづま-りん)」という男から「とある人物の動向を調査してほしい」との依頼を電話で受け取ったあなた。土曜日に事務所に伺い、詳細を話すとのこと。

あなたは事務所で、彼が来るのを待つことになります。

 

軍人探索者用HO
休日である土曜日、暇を持て余しているあなた。

そこへ「瀬辺 久(せべ-ひさし)」(階級は探索者と同じ、もしくは部下)という友人が「頼みごとがある」と言います。この瀬辺はとても無愛想であり、駐屯地内で友人と呼べるような人物はあなたくらいしかいません。お願いができるような人物も、あなたしかいないのだろう…。
どういったきっかけで友人になったのか等、事前に考えて頂けるとRPがスムーズになるかと思います。

 


導入

 ★=KP情報

 

 

共通導入

 

1930~1932年頃、隅田川の水神祭当日の5月最終土曜日。

夏の匂いを感じる暖かい季節の帝都で、あなた達はそれぞれの朝を迎える。

本日行われている水神祭とは、隅田川の川開きのことである。

当時の隅田川の水神祭といえば、現代でも続く「隅田川花火大会」の原型だ。

「隅田川花火大会」の慰霊と悪疫退散という現代にも伝わる伝承は、1934年に付け加えられたもの。

このシナリオ内ではその伝承が定着する前のことなので、花火は「水神祭のついでに花火業者の広告目的として打ち上げられるもの」だった。


鮮やかな花火は今夜、隅田川周辺を彩って人々の目を楽しませることだろう。

 

 

 


マスメディア探索者導入

 

毎日毎日、三文記事を細々と書いているあなた。休日の土曜だと言うのに、上司に呼び出されてしまいます。

なんでも、浅草にある「カジノ・フォーリー」で今話題の踊り子「真珠」に、恋人がいるのではないかという噂。

この時代でも、芸能人の恋愛ゴシップ記事は人気でした。

「報酬は弾むから、休日を返上して頑張ってくれ!」とのこと。

 

 

上司

「ありがとう!君ならやってくれると信じていたよ!」

「なんの情報もなしに放り出すことはしない、こちらで既に仕入れている情報を渡そう」

 

 

【踊り子「真珠」について】
1ヶ月ほど前に「カジノ・フォーリー」でデビューしたばかりの踊り子。

しなやかな長い手足、美しい黒髪、陶器のような白い肌をもつ、笑顔が素敵な美少女。

しかし非常に無口で、誰も彼女の声を聴いたことがないとか。

今はバックダンサーや台詞なしの端役ばかり演じているが、彼女の美貌は間違いなく観客を魅了している。

【「真珠」の恋人について】
「ハンチング帽を被った華奢な男」と浅草を歩く姿を何度か目撃されている。

特定の男と二人っきりで歩いているだなんて、これは特別な感情があるに違いない!

【手を引いた探偵】
実はこの記事を書くにあたって「アンリ」という探偵を雇って調査させていた。

しかしその探偵は昨夜突然、前金を返却した上で手を引いてしまった。

だから君が休日返上する羽目になった。

探偵に話を聞けば君の腹の虫も治まるかもしれないな。

興味があれば、取材のついでに浅草の「純喫茶ハトヤ」に行ってみるといい。

彼はいつも奥の席でタバコを吸っているはずだ。

 

 ★バンコランという名字は伏せておこう。いざ登場したときの驚きと笑いが倍増するからである。

 

 


探偵探索者導入

 

数日前に「水馬 凛」という男から「とある人物の動向を調査してほしい」との依頼を電話で受け取ったあなた。

土曜日(今日ですね)に事務所に伺い、詳細を話すとのこと。

あなたは事務所で、彼が来るのを待つことになります。

 

ほどなくして事務所のベルが鳴らされます。

 

先日連絡をさせていただいた水馬です

「身内からあなたの評判を耳にして、お尋ねしました」

 

【依頼内容】

・『瀬辺 久』という陸軍人の動向を調査してほしい。
・瀬辺と自分は『恋人』である。

・休日は必ず逢いに来てくれたのに「三週間前」から、忙しいという理由で来なくなった。
・先週、浅草の水族館に向かう彼を見つけた。自分に嘘をついてまで一人で遊びに行く理由を知りたくて尾行した。
・そして、水族館2階の「カジノ・フォーリー」で踊り子のひとりを熱心に見つめる彼を見てしまった。
・ただのファンならば良かったのだが、彼の目はあの踊り子を渇望し求めている目だった。

 10年近く付き合っているから分かる。

・瀬辺はあの踊り子に恋をしていて、自分と会うことに罪悪感や嫌悪を感じているのではないか?
・自分で解決しようにも、感情が邪魔をして冷静な判断と行動が取れそうにない。

 だから依頼をしにきた。平たく言えば「浮気調査」だ。
・浮気をしているなら、浮気の証拠を入手してほしい。
・浮気をしていないのならば、なぜ自分に会いにきてくれないのかの理由を探ってほしい。
・報酬は前金で50円、結果報告で100円。

 


報酬の合計は150円、サラリーマンの1ヶ月のお給料ほどかな?

ちなみに『当時の1円=現代の2000円』くらい。

 

依頼を受ければ、水馬は調査に必要そうな情報を教えてくれます。

瀬辺の写真も受け取ることができます。

 

 

【瀬辺について】
・水馬の恋人、陸軍人。
・身長180cmと、かなり大柄。右頬にウロコのような特徴的なアザがある。
・不器用で頭も良くないが、体を動かすことは得意。特に水泳。

【浅草公園水族館】
瀬辺が出入りしていた水族館。2階に「カジノ・フォーリー」がある。

瀬辺はカジノ・フォーリーの踊り子に恋をしているらしい…?

【踊り子について】
瀬辺の想い人の踊り子は「真珠」という芸名らしい。

観客からその名前で呼ばれていた。

自分は芸能界に興味がなく疎いので、「真珠」がどういった女性なのかは知らない。

彼女を見ると嫉妬に狂ってしまうので、彼女についてはほとんど調べていない。

【瀬辺の友人】
少ないながら、瀬辺には軍人の友人がいるようだ。

瀬辺の友人に話を聞けば何か分かるかもしれない。

名前は『(軍人探索者)』。

 

 

水馬は茶色い封筒をあなたに手渡す。前金の50円だ。

彼はお辞儀をして、事務所をあとにします。

 

 


軍人探索者導入

 

都内の陸軍駐屯地。本日は土曜日。

兵士達にもちゃんとお休みはあり、土日はゆっくりできるのだ。

暇を持て余しているのか、どこかに出かけようかと考えていると、あなたの名前が呼ばれる。

 


軍人

「おい、瀬辺が呼んでいるぞ。医務室に居るってさ」



医務室に向かうと、瀬辺がベッドに腰掛けている。

眠たそうに目をこすっており、先ほどまで寝ていたようだ。

両足首に包帯が巻かれている……。

 

ああ、呼び出してしまってすまない

 


【頼みごと】
・今日これから浅草の水族館2階にある「カジノ・フォーリー」に行ってほしい。
・そこの踊り子「真珠」と会う約束をしている。彼女から「伝えたいことがある」と言われていた。
・昨晩足を怪我してしまって、出かけられそうにない。彼女に「逢いに行けなくてすまない」と伝えてほしい。
・本当は自分で行きたいのだが、軍医が許してくれない。遺憾の意である。

 


瀬辺は「銀守り」をあなたに託す。

 

「これを見せれば、俺の使いだということを分かってもらえる」
「失くさないでくれ、親父の形見なんだ」


<瀬辺の銀守り>
浅草寺で販売しているロケットペンダント型の銀製のお守り。

元は瀬辺の父親のもの。震災のときに火事の熱で溶けてしまい、開かなくなってしまった。



真珠って?
・カジノ・フォーリーの踊り子。デビューしたばかりらしい。
・縁があって、最近知り合いになった。
・彼女は「聾唖者」だ。なにか書くものを持って行ったほうがいい。


なぜ怪我を?
・よく覚えていない。気が付いたら怪我をしていた。
 →軍医に聞けば、医務室の外に連れ出された上で答えてくれる。

 

 

軍医
「深夜に自分の軍刀で足首を傷つけていたようだ」
「腱が切れていなくて良かった」

「自傷が続くようなら、脳病院に送らなきゃいけないかもしれないな」

 
※当時の「脳病院」とは、現代でいう「精神病院」のことである。

 


★Kからの手紙(陸軍駐屯地参照)で「大切なものを傷つける」と脅されている瀬辺は自分の「大切なもの」である水馬の身を案じた。しかし母親の手がかりかもしれない真珠と接触することを止めるわけにはいかない。結果的に、水馬に会わないことで、彼との関係を仄めかさないようにしている。Kは「瀬辺と水馬が恋人」であることを知らないので、星からの暗黒による影響は瀬辺が直接受けている。

 


 

 それぞれの導入が終了したら、まずは全員に「浅草公園水族館」に向かってもらうよう指示しよう。

水族館2階のカジノ・フォーリーで発生するイベントを見てもらい、探索者同士で合流をするためだ。

■浅草公園水族館

 

土曜日の浅草は人々でごったがえしている!

露店が呼び込みをしていたり、チンドン屋が賑やかしていたり、モボモガがデートをしていたり。

事情は違えど目的地は同じ。みなさんは浅草公園水族館へ向かいます。

 

 

【浅草公園水族館】
1899年(明治32年)に開業した日本初の私設水族館。

地下には食堂、2階には「余興場(カジノ・フォーリー)」があった。

水族館の観覧料を払うと「余興」のカジノ・フォーリーが見られるという仕組み。

観覧料は明治の開業当時「大人5銭、小人3銭」。現代でいうと大人1000円、子供600円くらい。

 

ミノカサゴ、アカヒトデ、ゴンズイ、イセエビ、アカエイ、

デンキエイ(シビレエイ)、タコ、イカ、イソギンチャク…。

……などなど、日本に生息する魚たちが何十種類も展示されている。

一度にたくさんの海洋生物を見学できるこの施設に、圧巻されるかもしれない。

しかし開業当時と比べ水族館の人気は低迷しており、現在は2階にある余興の「カジノ・フォーリー」を目当てに水槽を通り過ぎる客ばかりであった。

あなた達以外の客は水槽を一瞥するだけで、サッサと通り過ぎている。

水槽が並ぶ通路を通り過ぎた先の階段を登れば、余興場「カジノ・フォーリー」だ。

 

 

<聞き耳>

その辺にいた水族館の従業員の話し声が聞こえる。

 

 

水族館の従業員たち

「おい、イシダイが少なくないか?」
「あれっ、本当だ、言われてみれば数が足りないな」
「大きな魚を食っちまうやつなんてこの水槽にはいないんだがな…」
「この前イセエビがいなくなったばかりだってのになぁ」

 

 

★閉館後の水族館に、舞台後の真珠が忍び込んでつまみ食いをしている。

 

 

 

■水族館の幽霊

 

★水族館には幽霊である「三河ハナミ」がいる。「K」を追いかけて来たものの、星からの暗黒の影響で彼女に近付くことができず、さらに真珠の身を案じて考え込んでいるところだ。この時点では、三河が幽霊であることは仄めかさないようにしよう。

 

 

▼ダイスロール、もしくはKPが適当だと思う探索者「1名」に以下の情報を伝える。

 

あなたはみなさんの最後に、階段を登ることになります。

そのとき、水槽をしげしげと眺める「断髪の女性」が目に止まる。

客の少ない水族館で、水槽をぼんやりと見つめているのだ。

水槽を揺蕩う魚達を追うその横顔は、物思いにふけっているようだった。

なんてことない、一般客のようですね。話しかけるかどうかはあなたの自由です。

 

※「断髪」とはショートカットのこと。モガらしい髪型。

 

 

断髪の女性に話しかければ、彼女は気さくにお喋りをしてくれる。

 

 

「あら、こんにちは」
「魚を見ていたの、水の中を優雅に泳ぐ姿は見ていて飽きないわ」


「カジノ・フォーリーに向かうの?」
「私も少し前まであそこで働いていたのよ、バックダンサーだけれど」
「もう辞めちゃったんだけれどね」

 

「せっかくの綺麗な水槽なのに、お客が少なくて寂しいわ」
「よくここには来るんだけれど……噂のせいもあって水槽は不人気なのかしら?」


「なんでも、夜の水族館に幽霊が出るって噂があるのよ」
「暗い水中で、人影がゆらゆら揺蕩っているんですって」


水のある場所には幽霊が出やすいと聞くけれど、本当かしら?」

「舞台を楽しんでいらしてね、私はまだ魚を見ていたいから…」

 

 

★水族館の幽霊とは真珠のことであるが、それを話しているのは本物の幽霊である。おまいう。

★この時点で、話しかけた探索者に三河が取り憑いており、Kとの接触の機会を伺っている。セッションの節々で、とりつかれてしまった探索者に「なんとなく肩が重い…」「背後に人がいるような気配がする…」などベターなホラー描写を入れると盛り上がるぞ。なお、直接的な害は特にない。

 

 

■カジノ・フォーリー

 

【カジノ・フォーリー】

浅草公園水族館2階にある「余興場」である。

メインであるはずの水族館よりも人気があり、ほとんどの客はこの余興を目当てに水族館に訪れるのだ。

水族館には閑古鳥が鳴いているが、ここは満員御礼だ。

当時の大人気コメディアン「エノケン」はここで見ることができるぞ!

客席に向かえば、役者達が舞台上でドタバタな喜劇を面白おかしく演じているのを観劇できる。

残念ながら満席であり、あなた達が座れる場所はない。立ち見をしよう。



<目星>
ひまわりのような明るい笑顔を振りまくダンサー達のなかで、控えめな微笑みを湛える少女がいることに気がつく。

その控えめさとは裏腹に、「真珠ー!」「真珠ちゃん!」という賞賛の声が客席から度々上がる。

 

 

しなやかな長い手足、黒檀のような艶やかな長い髪、陶器のような白い肌。

それは男女や年齢を問わず、観客を魅了していた。

しかし、多くの賞賛の声があるにも関わらず、彼女はその声にちっとも見向きをしない。



<さらに目星-10、アイデア代用可能>
白塗りの化粧で隠しているが、真珠の頬にはうっすらと「ウロコのようなアザ」があるようだ。

 

 

 

 

■踊り子に向けられた凶弾

 

★この時点で「マスメディア探索者」はNPCたちとの関わりが薄い。シナリオに更に首を突っ込んでもらうために、下記の「ハンチング帽の人物」との接触イベントはマスメディア探索者にぶつけよう。

 

 

あなたの隣には、大きなハンチング帽を被った人物がいる。
その人物は、あなたに話しかけてきた。

 

「なぁ、あんたも真珠が目当て?」

「べっぴんだもんな、あの子」

「ここにいる何人の男が、あの子をモノにしたいと考えているんだろう」

 


ハンチング帽の人物は懐に手を入れ、何かを取り出した。

それは、ピストルだった。

あなたが何かを反応する前に、舞台上をめがけて発砲される。


※瞬きをした瞬間、ハンチング帽の人物は消えている。

踊り子達が舞台上で華麗に踊っていると、突如「パン!」という乾いた音が鳴った。
ピストルの音だ!

 

弾丸は、そのとき先頭で踊っていた「真珠」を狙ったものらしかった。

 

 

 

彼女は、胸を貫かれ、赤い血を流して、舞台に倒れた。

観客や踊り子たちが悲鳴を上げる。

たったひとつの鉛玉により、劇場内はたちまちパニックに陥った。

 

SAN値チェック 0/1d3

 

 

踊り子たち

「…! 真珠ちゃん、あなた大丈夫なの!?」



舞台上で真珠を取り囲んでいた踊り子が、驚きの声を上げる。

そちらを見れば、真珠は起き上がって、しっかりと立っていた。

表情も変えず、その場でけろりとしている…。

★セベクの加護によって、真珠の傷は完治している。

誰かが迅速に呼んでくれたのだろう、すぐに警察が何人も駆けてきた。

混沌の劇場内で狼狽えるあなた達は、警察に事情聴取をされることになる。

その場に居合わせていただけなのですぐに解放されるが、その頃にはもう午後になっている。

 

★同じ警官に事情聴取をされたことにして、お互いの状況を話し、合流してもらおう。探偵探索者が軍人探索者の名前を聞けば「水馬から教えられた瀬辺の友人」だということが分かるし、そのやりとりを見聞きしたマスメディア探索者は探偵探索者と軍人探索者が真珠のゴシップに関する情報を握っていると察することができる。

 

 

真珠はまだ「カジノ・フォーリー」の楽屋にいるかもしれない。

いなかったとしても、スタッフや他の踊り子たちから何かしらの情報を得られるだろう。

一度楽屋を訪ねてみよう。

 

 

 

■カジノ・フォーリーの楽屋

 

楽屋の前では、ひとりの男が何やら喚いている。

 

「おい、真珠ちゃんは大丈夫なのか?」

「一目でいいから会わせてくれよ、いいだろ!?」

 


「しつこいですね!お引き取りください」とスタッフに強引に押しのけられている。

喚いていた男は舌打ちをして、あなた達のいる出入り口までやってくる。

そして、あなた達を睨みつけながら一方的に話し始めるのだ。

 

 

【追っかけの男】

・お前達も真珠ちゃんのファンか?真珠ちゃんを一番好きなのは俺だ、そこんとこ覚えておけよ!
・真珠ちゃんがあんな目にあったから心配でやってきた。でもスタッフが通してくれない。
・また「ハンチング帽の男」とどこかに行ってしまったのだろうか。

 あんなモヤシより俺の方が真珠ちゃんにふさわしいのに!

 

 

 

楽屋前では踊り子が数名たむろしている。
真珠の追っかけの男を見て、怪訝な顔をしている……。

 


踊り子たち
・真珠ちゃんを目当てにまた押しかけてきている、気持ち悪い男だ。
・真珠ちゃんはとびきり可愛いから、ああいう変なフアンが何人もついてしまう。
・あの子は耳がほとんど聞こえなくて、うまく喋れない。

 それを「大人しくていつも黙っている都合のいい女」だと勘違いする男が多い。
・でも私たちが過度に守らなくても大丈夫。最近真珠ちゃんにボーイフレンドができたのだ。

 変なフアンに絡まれる前に、いつも彼と一緒に劇場を抜け出している。
・名前は知らないけれど、「ハンチング帽を被った華奢な男」だ。

 ちらりと見たことがあるけれど、なかなか顔が良い。

真珠は?
・警察のひとが話を聞きに行く前に、姿を消してしまった。
・病院に行ったのだろうか、でも一人で行くなんて…。
・銃弾に撃たれたようだったが、傷は無かった。運良く外れたのでは?

ハンチング帽の人物が真珠を撃ったんだよ!
・ええっ、本当!?でも、ハンチング帽のお客さんなんて沢山いるわよ。


踊り子たち

「真珠ちゃん、またハンチング帽の彼と出かけちゃったのかしら」

「自分のドレッサーに封筒の言付けを残して、ねぇ」
「銀守を持った軍人さん、ほんとに来るのかしら?」

 


踊り子に「瀬辺の銀守り」を見せれば、「真珠から言付けをされている」と話を切り出す。

踊り子は「茶色い封筒」を探索者に渡してくれる。

 


<茶色い封筒>
封筒の中には、なにかが入っているようだ。底が少し膨らんでいる。

そして、封筒の側面には「教養を感じさせる綺麗な文字」で、一行だけ文章が書かれている。


『溶けて開かなくなっている銀守りを持った軍人さんが来たら、これを渡して下さい。』


封筒を開けたならば、「柳島アパートメント201号室」というタグのついた『鍵』が入っている。

柳島アパートメントとは、浅草にある最先端の設備を揃えた近代的なアパートのことだ。

探索者たちも知っているだろう。

 


<アイデア>
封筒がなんだか湿気っている気がする…。

どうやら、鍵とタグが濡れており、それについた水滴を封筒が吸ったのだと気が付ける。

なぜ鍵が濡れているのだろう?

 

 

★封筒の文字を書いた鍵の持ち主は、真珠ではなく「三河ハナミ」である。真珠は探索者たちのことは一切知らないし、踊り子たちに言付けもしていない。探索者たちに真相を知ってもらいたい三河が、自分の家である「201号室」に誘うために、真珠のドレッサーに封筒を置いたのだ。201号室は「Kと三河」の住まいである。鍵が濡れているのは、三河が隅田川で死んだ幽霊だからである。

 

 

 

 

ここから先は自由探索の時間だ!

この時点で行ける場所は

 

・純喫茶ハトヤ

陸軍駐屯地

柳島アパートメント

 

である。どこから向かっても構わない。

ただし「柳島アパートメント」は先ほどの封筒の中身の「201号室の鍵」を確認してからでないと開示されないことに注意。

 

 

 


■純喫茶ハトヤ

 

【純喫茶ハトヤ】

1927年に開業された「ハトヤ」は、現在も浅草で営業を続けている純喫茶である。

店に入れば、気の良さそうな店主が「いらっしゃいませ」と声をかける。

店内は狭く、喫煙している客がひとりいるだけだ。煙が漂っている。

奥でタバコを吸っている長髪の美男子が「アンリ・バンコラン」だ。

彼はクールだが人情味のある探偵である。

自分が放棄した仕事の後継であるマスメディア探索者がいれば、包み隠さず情報を話してくれるだろう。

 

なお、10~19歳のAPP14以上の『美少年』が探索者のなかにいる場合、アンリを見ると強制的に頬を赤らめてしまう。

なぜなら彼は『美少年キラー』の異名を持つ探偵だからだ。

 

 

「…ん?」 

「たしかに私がアンリ・バンコランだが

 

「ああ…、私が放棄した依頼の…」

「すまんな、詫びにはならないだろうが、私が知っている範囲を話そう」

 

 

【真珠の恋人について】
・真珠は公演後「ハンチング帽を被った”女”」と共にどこかへ出かける。
・ん?男じゃないかって?あれは「男装をした女」だ。俺を見ても頬を赤らめなかったからな。
・その女が「真珠の恋人」だろう。
・真珠とその恋人は、駒形にある小さな連れ込み宿「すみれや」によく寝泊まりしているようだ。
・「すみれや」はまだ閉まっている時間なので、聞き込みをするなら夕方以降だな。


※「連れ込み宿」とは現在でいうラブホテルのことである。


【依頼から手を引いた理由】
・調査をしている最中、妙な手紙が届いた。

 

アンリは懐から一通の手紙を取り出して開封し、中身の手紙を見せる。

 

★なぜ脅迫状を持ち歩いているのか?アンリは脅迫状を送って来た犯人の手がかりを求めており、証拠となる手紙を持ち歩いていたのかもしれない。

 


<アンリ・バンコラン宛ての手紙>
真珠に逢うのはやめろ。
さもなくば、貴様は一番大切なものを失くす。
二度と貴様の顔を見ないよう、願っている。



・最初は「馬鹿馬鹿しい」と思って無視していた。
・手紙が届いたその後も調査を続けていたところ、自分の恋人に異変が起こった。
・毎夜ひどい悪夢を見るという。海に投げ出されて溺れ死ぬ夢や、巨大な鮫だか鰐だかに食われて死ぬ夢だとか。
・さらに恋人が自傷行為をするようになった。

 突然気が変になって、ガラスや皿を割り、その破片で自らの手足を傷つけるのだ。
・自分に被害があるならともかく、恋人を苦しませるわけにはいかない。

 依頼から手を引いたとたんに、恋人の悪夢と自傷行為はおさまった。

 奇妙な話だ、オカルトは信じたくはないのだが。
・というわけで、「すみれや」には行かず仕舞いだ。

 そこに出向く二人を写真に収めることでも出来れば依頼は完了していたのだがな。惜しかった。


【ああ、そうだ】
・この依頼を行うにあたって夜間でも写真が撮れるよう「ストロボ(閃光電球)」をいくつか用意していたのだが、無駄になった。持ち歩くのが面倒だから捨てようと思っていた、丁度いいからお前(マスメディア探索者)にやる。


アンリは「ストロボ」を「3つ」譲渡してくれる。カメラと発光器(小型の傘)があればフラッシュを炊けるぞ。

 

★ストロボは今後の戦闘の際に役立つ。

 

 

探索者が飲食をしていたのならば、アンリは全員分の会計を支払って退店する。

そして、喫茶店から出る際に、誰に言うでもなく彼は呟く。

 

 

魅力的な宝石の光には、悍ましい影が付き纏うものだ」

「踊り子の調査を続けるのならば、用心するのに越したことはない、気をつけたまえ」

 


■陸軍駐屯地

 

【陸軍駐屯地】

瀬辺と(軍人探索者)さんが所属している、都内にある駐屯地。

水神祭、休みの土曜日ということもあり、面会者などの一般人も多い。

軍人でない方もぬるっと兵舎に入ることができます。

(軍人探索者)さんが同行しているので、関係者だと思われているようです。

目立つ行動をしなければ咎められないでしょう。

 

行ける場所:【医務室】【兵舎】

 

 

 

 

【医務室】
瀬辺が寝込んでいる部屋だ。しかし瀬辺の姿が見当たらない。

何やら軍医が慌てている姿が見える…。

 
軍医
「(軍人探索者)殿、瀬辺を知らないかい!?」

 

・ちょっと目を離した隙に瀬辺がいなくなった!外出許可は出していないのに。
・あの怪我で歩き回ったら治るものも治らなくなってしまう。
・彼は不器用ではあるが規律はちゃんと守る兵士だ。自傷行為といい明らかに最近の彼はおかしい。

 気が違ってしまったのだろうか?

 

瀬辺はKによって操られて呼び出された。真珠に深入りをしていた彼を殺すためだ。

 

 

 

【兵舎】
多くの兵士達が暮らす兵舎に用があるとすれば、瀬辺の所属する班の部屋だろう。

軍人探索者の部屋でもあるかもしれない。

みんな街に繰り出しているのか、部屋には誰もいない。

窓際に瀬辺の寝床があり、ベッドの下には彼の私物がほんの少し置いてある。

と言ってもほとんどが軍用品で、特に変わったものは置いていない。

<目星>
ベッドの土台と布団の隙間に何かが挟まっている……。

取り出してみると、それは一冊のノートだ。どうやら日記らしい。

以下、気になる内容を抜粋。

 

 

【瀬辺の日記】


<最初のページ>
リンのすすめで日記をかいてみることにする。
自分はものおぼえがわるく、文字をかくのにもなれていないので、ちょうどいいかもしれない。

~上官に殴られるのが嫌だの、どこの飯がうまいだの、しばらくどうでもいい内容が続く~

<1ヶ月と少し前の日付>
リンに会った帰り、なんとなしに閉館時間間際の浅草の水族館へ立ち寄った。

2階はカジノ・フォーリーという余興場であり、そこで真珠という新人の踊り子を初めて見た。

15歳か16歳くらいだろうか。美しい少女だった。

彼女を見ているうちに、気が付いた。

白塗りの化粧で隠していたが、彼女の頬には自分とそっくりなアザがある。
自分は母親の顔を知らない。父は母の話をよくしてくれた。

美しく聡明で、よく笑いよく喋る陽気な人だったと。

そして、自分とそっくりなアザを持っていたと。

母は自分を産んでから突然姿を消してしまったらしい。

父は帝都中を探し回ったが、とうとう見つけられないまま、5年前に結核で他界した。
……母がまだ生きているのならば、父の元を去った後に他の男ができていても不思議ではない。

この奇妙なアザを持つ人物が、全くの偶然で帝都に何人もいるだろうか?

踊り子の真珠、彼女はもしかして自分の種違いの妹なのではないだろうか?

どうしても確かめたい。

<1ヶ月前の日付>
彼女にはボーイフレンドがいるようだ。

「ハンチング帽を被った華奢な男」が公演後の彼女を独り占めして、すぐに二人でどこかに行ってしまう。

今日も真珠に会うことができなかった。残念だ。

<三週間前の日記>
妙な手紙が届いた。

真珠の熱心なフアンからだろうか?もしくはあのボーイフレンド?

「真珠に会おうとしている」のが知られたことが気味悪い。

もしかしたら尾行をされていたのかもしれない。
自分の「一番大切なもの」……。

用心するに越したことはないだろう。

彼になにかあったら大変だ。

リンに会うのを今しばらく止めよう。

 


(このページに送り主の名が書かれてない封筒が挟まっている。中身は紙切れ一枚だけだ。)

 


<瀬辺宛ての手紙>
真珠に逢うのはやめろ。
さもなくば、貴様は一番大切なものを失くす。
二度と貴様の顔を見ないよう、願っている。

 


<一週間前の日付>
やっと真珠に会うことができた。

会って初めてわかったが、彼女は「聾唖者」であった。

舞台ではそれを感じさせなかった。

自分が思っているより実力のある踊り子なのだろう。

彼女とは筆談で会話をすることにした。

 


(メモ帳の切れ端が挟まっている。『子供が書いたような拙い字』だ。)

 


『あなたが私を観ていることは前から知っておりました。』
『来週の土曜日も是非いらして下さい。お伝えしたいことがあります。』

 


<数日前の日付>
ここ最近あまり眠れていない。

深い水に溺れる夢や、巨大な鮫や鰐に食われる夢を見る。

寝不足でぼんやりしていたら、上官に殴られた。

 

 

 ★日記に挟まっていたメモ帳の切れ端の『子供が書いたような拙い字』=真珠の筆跡

★踊り子から受け取った、鍵入りの封筒の『教養を感じさせる綺麗な字』=三河ハナミの筆跡

★アンリと瀬辺に宛てられた忠告の手紙=Kの筆跡

 

 


■柳島アパートメント

 

【柳島アパートメント】

柳島アパートメントとは、墨田区にある同潤会アパートのひとつ。

同潤会アパートとは、財団法人同潤会が大正時代末期から昭和時代初期にかけて東京・横浜の各地に建設した鉄筋コンクリート造集合住宅の総称である。

エレベーター・食堂・共同浴場・談話室・売店・洗濯室・音楽室・サンルームなどが完備されていて、当時最先端の近代的な設備を備えているアパートであり、独身職業婦人たちが憧れる居住施設であった。

1993年に解体され、現在は「プリメール柳島」と名称を変えて存在している。

ちなみに百獣戦隊ガオレンジャーのガオブラック役の酒井圭一さんが住んでいたらしいよ。

 

 

当時まだ珍しかったエレベーターを使って、あなた達は201号室前へと赴く。

ドア横の表札には『三河』と表記されている……。

踊り子から受け取った「201号室の鍵」を使えば、扉は問題なく開く。

奇妙なことに、まだ昼間だというのに部屋の中は真っ暗である。

あなた達が開けたドアから入る陽のみが、部屋の中を照らしている。



調べられるもの:【窓】【書き物机】【本棚】



<部屋全体に目星>
部屋全体をよく見渡してみれば、床や壁の隅に「黒いシミ」があることに気がつく。

触ったりこすったりしても付着はしない。

完全に染み付いてしまっているようだ。

 

★部屋のあちこちにある黒いシミはKのもの。星からの暗黒から漏れ出てている液体。

 


【窓】
窓にはダンボールがびっしりと貼り付けられており、さらにそれをカーテンで締め切っている。

この部屋の住人は、陽の光を嫌がる吸血鬼だったとでもいうのだろうか?

ダンボールにも黒いシミがべたべたと染みついている。

【書き物机】
なにかを執筆するのに必要そうな道具が一通りある。

気になるものといえば「写真立て」だ。

飾られている写真には、「ハンチング帽を被った人物」「カジノ・フォーリーの踊り子の衣装を着た長髪の女性」が写っている。三河ハナミに話しかけた探索者が見れば、水族館で出会った「断髪の女性」が写真の長髪の女性と同一人物であることが分かる。

【本棚】
小説や雑誌が収納されている小さめの本棚だ。

女性向けのファッション雑誌や生活情報誌、恋愛小説が多い。

<目星-10、図書館>
雑誌や小説に紛れて、何冊かの「ノート」を見つける。

ノートには「黒いシミ」がたくさん付着している…。

薄くなりかけているシミから、最近付着したような濃いシミまでと、時間の経過を感じさせる汚れ方だ。

このノートはどうやら日記のようで、ノートの量からして住人は日記をつけるのが日課になっていたようだ。

 

以下、気になる内容を抜粋。

 

 

【???の日記】

<昨年秋頃の日付>
Kさんと恋人になってから、毎日が楽しい!

恋をするってこんなに楽しかったのね。

お付き合いの記念に、Kさんにハンチング帽をプレゼントしたわ。

Kさんにはちょっと大きかったかしら?

でも、Kさんはとても喜んでくれたのよ。

お礼に、抱えるのがたいへんなほど立派な花束をもらったわ。

お部屋の中がいい匂いでいっぱい!

(以下しばらく『Kさん』とのデートの詳細や、同居し始めたという楽しげな内容が続く)
(記載されている日付は不定期であり、毎日書いていたわけではないようだ)

<昨年冬頃の日付>
Kさんと暮らすようになってから、Kさんがとても嫉妬深くて寂しがり屋だということがわかった。

Kさんは「自分の性格のせいで友人も恋人もいなかった」と話してくれた。

でも、私はそんなKさんが好きよ!理由なんてないわ。

好きになってしまったから、私はもう盲目なの。

何があっても、私だけはずっとKさんの側にいるわ。

<1ヶ月前の日付>
親にKさんとお付き合いしているのが察されてしまったみたい。

すぐさまお見合いの話を持ってこられてしまったわ。

まったく、女性という生き物はとても窮屈ね。

<黒いシミで日付が読み取れない>
Kさんと話し合って、遠くへ駆け落ちすることになった。

小説か映画のようで、すごくロマンチック!

家との関係を断つという覚悟として、自慢の長い髪を切ることにしたわ。

過去をすべて水に流して、この身一つだけで恋人と逃げるのよ。

 

 

以下白紙。

★PLに『日記の筆跡について』聞かれた場合、「教養を感じさせる綺麗な文字」だと伝えること。



<アイデア>
探索者たちが気になるような内容が書かれていない日付が古いノートのほうにも、「最近ついたような濃い黒いシミ」が付着している。この汚れの主は、「何度も日記を読み返している」のではないだろうか。

 

★Kが三河を恋しがり、毎日のように彼女の日記を読み返している。

 

 

 

 


■連れ込み宿『すみれや』

 

時刻はすでに夕暮れ。赤い夕日があなた達を照らしている。
教えてもらった住所に向かえば、そこはひっそりとした住宅街である。
こんな場所に宿があるとは思えないが、あなた達は「すみれや」を求めて裏路地を探し回る。
日が沈みかけた頃、看板に「すみれや」と書かれた、ほとんどただの家と間違えてしまいそうな小さな宿を見つけられるだろう。

宿を尋ねれば、枯れてしまった花のような微笑みを湛える女将が出迎える。

 

 

女将
「ご宿泊ですか?休憩ですか?」
「ご宿泊は二円、ご休憩は一円になります」

 

 

金を多めに払う、もしくは交渉ロールに成功すれば、Kと真珠がいる部屋を教えてもらった上で適当な部屋に通してくれる。

 


【ハンチング帽を被った人物が来なかったか?】
・つい1時間ほど前に来た。まだ2階の一番奥の部屋にいる。
・よく利用してもらっているが、名前までは知らない。
・その人はいつも連れがいる。大人しそうな黒髪の女性だ。彼女が喋っているところは一度も見たことがない。

 

 

探索者たちは、ギィギィと音のなる階段を上がり、2階の部屋へ向かうことになる。

宿の中は妙に静まり返っている……。

 

 


【Kと真珠の部屋】
部屋は簡単な木製のドアで隔たれている。

鍵はかかっていないようだ…、掛け忘れているのだろうか?

<聞き耳>
ぐちゃ、ぬちゃ、という粘性のものが動くような音が絶えず聴こえる。

情事の際の音にしては違和感がある。



あなた達が部屋の扉を開けた瞬間「バシャン!!」という、何かが割れる音がする。

部屋の窓ガラスが割られたのだ。(★Kが真珠を連れて逃げた)

電気の点いていない薄暗い部屋の中央に立っているのは、

ハンチング帽の人物でもなく、真珠でもなく、「ひとりの男」だった。

 

 

 

それは、カジノ・フォーリーの楽屋で真珠の追っかけをしていたあの男だ。

立ち尽くす男は、顔のありとあらゆる穴から「黒く粘着質な液体」を垂れ流している。

そして、割られたガラスの破片で自らの手首を深く切り裂いており、左手が血で染まっている。

SAN値チェック 1/1d3+1

男は糸に吊るされた操り人形のように、ガラスの破片を握ったまま、

おぼつかない足取りであなた達に襲いかかってくる!

 


★追っかけの男は、探索者とは別に、Kと真珠をストーカーしてここに辿り着いた。彼女らの部屋に無理やり押しかけた際に、星からの暗黒の眷属にされてしまった哀れな男である。探索者の存在に気づき、鬱陶しく思ったKが、探索者を襲うように仕向けたのだ。



<アイデア>
追っかけの男は、窓から差し込む夕日の光を避けるように行動していることに気がつく。

日光、ないしは光を嫌がっているのではないだろうか?

 


追っかけの男のステータス
STR13 CON11 POW10 DEX12 SIZ12

▶︎HP12

▶︎こぶし(ガラスの破片で切りつける)50% ダメージ:1d3+1d4

 

 
通常の武器でのダメージ値は全て半減される。

代わりに、光によるダメージが有効的だ。

部屋の電気をつければ、それだけで毎ラウンド1d4のダメージを与えられるし、

ストロボを焚けば1d10+2のダメージを与える。

 

追っかけの男は耐久力が0になると、夕日に溶けるように崩れて消えてしまう。

 
部屋をよく見渡せば、窓のふちにべったりと「黒い粘着質の液体」がこびりついている。

乾いておらず、触ればねちゃねちゃとしていて何とも気味が悪い。

液体は窓から屋根、屋根から地面へと伝っている。

 

この痕跡を追いかければ、ハンチング帽の人物と真珠に追いつけるだろう。

 

 

★宿で大暴れをしたのでさすがに女将が騒動に気付くだろうが、ここで足止めを食らうわけにはいかないので、女将には「あらあらまあまあ」と、なあなあで済ませてもらおう。ちなみにテストプレイでは探索者が女将に正直に話して警察を呼んでもらっている間にKと真珠を追いかけに行ったぞ。

 

 


■日活向島撮影所

 

すっかり日の暮れてしまった夜。黒い痕跡を辿ると、隅田川沿の河川敷へとたどり着く。

見渡してみれば、そこは日活向島撮影所だ。

 

 

【日活向島撮影所】

1913年開業、1923年に閉鎖された『日本活動フィルム株式會社(日活)』が所有していた映画スタジオ。

主に時代劇が製作されていた。

関東大震災により壊滅し、廃墟が取り残されている状態だ。

隅田河沿いに建てられており、周囲には住宅街やろくな灯もなく、暗く殺風景である。

「グラスステージ」というガラス張りのスタジオがあるのだが、窓ガラスはほとんど割れており、映画撮影に使われていた華々しい時代の見る影もない。

あたりにはガラスの破片が散らばっている。

うっかり転んでもしたら怪我をするだろう。


あなた達が河川敷に近づくと、髪を振り乱した人物が、空気を切断するような、鋭い、人間の声とは思えない異様な叫び声を立てていた。

彼、いや彼女は真珠に馬乗りになり、右手で握ったガラスの破片を真珠に何度も突き立てていた。

しかし、真珠は傷と口から赤い血を吹き出すが、一向に意識を失う気配がない。

 

 

「……」

「ああああ!!!!」

「なんで、なんで死んでくれないんだ!!」
「俺と一緒に死ぬのが嫌なのか!」

 


★探索者がKを阻止しようと駆け寄ったり武器を構えると、Kの影響下にある瀬辺が立ちはだかる。瀬辺は自我がないので、容赦なく探索者たちに攻撃を仕掛けようとする。

 

 

ハンチング帽の人物が叫ぶと、あなた達の前に大柄な人物が立ちふさがる。

黒い液体を纏う瀬辺だ!

瀬辺は軍刀を引き抜き、あなた達に向けている。

 

「……」

 

【SAN値チェック 0/1】

 

「深追いしなければよかったものを、貴様らはここで切り刻んで殺してやる!」


Kを中心に、禍々しい暗黒の風が渦巻く。

それは地面に散らばっていたガラスの破片を纏いながら舞い上がる。

下手に動き回れば、ガラスの破片が肉を切り刻むだろう。

 

吹き荒れる黒い嵐に、あなた達は閉じ込められてしまった!

陽のない夜間、人工的な灯りもほとんどない河川敷、さらに黒い風によって視界がほとんど確保できない状況だ!

 

★ダイスロール、もしくはKPが適当だと思われる探索者に向かって、瀬辺が襲いかかる。


荒れる風とガラス片を物ともせず、黒い空間を切り裂き、瀬辺が(探索者)に軍刀を振り下ろす!

突然暗闇から奇襲されたあなたは、回避をすることができない。

 

絶体絶命か!?

 

 

と、思われたそのときである!

 


バッ!!と、周囲が強烈な光に照らされた!

そして、軍刀を振り下ろさんとした瀬辺が何かの衝撃で数メートル吹き飛ばされる!

 

「!?」

「!! なんだ!?」

 
光に照らされたハンチング帽の人物が、苦しそうにうずくまる。

その瞬間、風が止みガラス片が地面へバラバラと落ちる。

光の方向を向けば、そこには一台の車が停車していた。

光の正体は車のヘッドライトだったのだ!

 

運転席には…、なんと水馬がいる!

この男はあろうことか恋人である瀬辺を車で轢いたのだ!ナムアミダブツ!

 

 

「走ってゆく(探偵探索者)さんを見かけたので、追いかけてみれば……」
「こんな場所でよその女と逢瀬していたなんて……!」

「おい久ィ!!!!」

「ツラ貸せコラァ!!!!言い訳は聞かんぞボケェ!!!!」


水馬は車から降りると、倒れ臥す瀬辺の胸ぐらに掴み掛かり罵声を浴びせている。

今にも殺してしまうのではないかというほどの剣幕だ。ちなみに瀬辺は気絶している。

 

(軍人探索者)なら分かるが、瀬辺の体は頑丈だ。

車に轢かれたからってどうってことはないだろう。

しばらくほっといても大丈夫だと確信できる。

ガラスの嵐は止んだ!
Kを叩くなら今が絶好のチャンスだ!

 

 


【K(星からの暗黒の憑依者)ステータス】
STR11 CON40 DEX14 SIZ12 INT14 POW35

▶︎HP26

▶︎回避 28%
▶︎ガラス片を巻き込んだ黒い渦 80% ダメージ:1d10+1


毎ラウンド1d3耐久回復

・通常の攻撃はダメージの値が半減される

 



Kとの戦闘


Kは光に弱い。以下の光を当てれば、確実にダメージを与えられる。

 光を当てる際のダイスロールに成功した場合、Kは回避行動ができない。


・懐中電灯(DEX*5):ダメージ1d4
水馬の車のヘッドライト(運転技能):ダメージ1d6
ストロボ(写真術):ダメージ1d10+2

ダメージは半減されてしまうものの、通常の武器でも攻撃は可能だ。

 

★もし探索者が写真術に失敗してしまった場合「準備に手間取った」「敵の攻撃で気がそれてしまった」などの理由でカメラの操作ができなかったことにしよう。3発しかないストロボを無駄にしてしまうのは痛手だ。

 

 

 

 


■いんぺりさぼう

 Kの耐久値を0にすると、これまでの行動によってエンディング前の描写が「2つ」に分岐する。

 

 

 ■描写A『不滅の恋

 

【発生条件】

・「描写B:不滅の愛」発生条件を満たしていない。

 

あなた達の妨害を受け続けたハンチング帽の人物は、その体を黒い液体へと変化させる。

消えるわけではない、逃げるためだ。

ハンチング帽の人物は、誰に言うでもなく静かに一言呟く。

 

「……なぜ俺を置いて行ったんだ」

 

ハンチング帽の人物は、宵闇へと溶けてしまった。

 

 

 

 

■描写B『不滅の愛

 

【発生条件】

・浅草公園水族館に居た「三河ハナミ(断髪の女性)」に話しかけている。

・柳島アパートメント201号室の「???の日記」を読んでいる。

 

あなた達の妨害を受け続けたハンチング帽の人物は、その体を黒い液体へと変化させる。

体の節々から黒い液体が止め処なくゴボゴボと溢れ出る。

それは人間の血液の量とはとても思えないほど大量に流れ出、奇妙にうごめき、彼女の姿を不気味なものに変異させる。

 

 

【SAN値チェック 1d3/1d6+1

 

 

Kの変わり果てた姿に驚愕しているあなた達。

そのとき、(三河に話しかけた探索者)の肩に「ひやり」と冷たい手が置かれます。

振り向けば、そこにいたのは水族館で出会った断髪の女性でした。

 

 

「こんばんは、また会ったわね」

「ごめんなさい、女の嫉妬って面倒臭いったらありゃしないわ」

 

次にあなた達が瞬きをした瞬間、断髪の女性はその場から消えた。

 

「………!!」

「ぐあっ…ああ、ああ!!!!」

 

川の側にいた『K』が悲鳴を上げる。

 

見れば、彼女は漆黒の川に引き摺り込まれているところだった。

川からは、濡れた真っ白な手が伸びており、彼女の足をしっかりと掴んでいる。

その白い手の主は、腰から下が川に沈んでいる断髪の女性だ。

『K』はどういうわけかその白い細腕に抗えられないようで、懸命にもがいている。

 

「ねぇ、言ったでしょ」

「何があっても、」
「わたしは、」

 「あなたのそばにいるわ」

「あああああああ!!!!!!いやだあああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 【SAN値チェック 1/1d3+1

 

 

★共に心中を願った仲だというのに「嫌だ」とはどういうことか。まだ人間を食い散らかし足りていない「星からの暗黒」の声だったのかもしれない。

 

 

 

 

■エンディング

 

あなた達が川を呆然と眺めていると、川のそばに真珠が駆け寄っていく。

真珠は水面をジッと見つめている。

 

真珠は耳がよく聞こえないのでうまく喋ることができない。

彼女とコミュニケーションを取りたい場合は、筆記用具が必要だ。

 

真珠が探索者から手帳とペンを受け取ったならば、文字を書き始める。

子供のような拙い字だ。

 

 

『助けていただいてありがとうございます』
『息子の久も、お世話になりました』

 

事実を知った探索者たちは、気絶している瀬辺を起こしにゆくかもしれない。

瀬辺が起こされると、真珠のほうを見る。

彼女は瀬辺と探索者たちに背を向けている状態で川のそばに立っている。

 

「……」
「…母さん?」

「  」

 

次の瞬間、彼女は とぷん と川の中へと飛び込んだ。
暗い暗い水の底と溶けてしまったかのように、彼女の姿は見えなくなった。
川の底に、鱗の生えそろった大きな生き物の尻尾が見えたような気がした。

 

そのとき。

 

ひゅるるるるるる。

 


どーーーーーーーん!!!!

 

 

突如、空がパッと明るく派手に照らされる。


あなた達は思い出す。

そういえば、今夜は水神祭の花火が打ち上がる日だった!
彩られる夜空に、帝都の人々の歓声と拍手があちこちから聴こえてくる。
あなた達の活躍は誰も彼も露知らないが、この花火と拍手喝采はあなた達を祝うかのようだ。

 

 

探索者達のRPが済んだら、後日談へ。

 

 

 

 


■後日談

 

■マスメディア探索者後日談

 

真珠のゴシップ、ないしはこの事件に関する取材の報告後……。

いつも通り、出版社へ出勤するマスメディア探索者。

上司は上機嫌で探索者を迎える。

 

 

上司

いや〜(マスメディア探索者)くん、お疲れ様!

あの写真、さすがに情報誌には載せられなかったけど、オカルト誌で大反響だったよ!

「今度の給料は期待していいからね!」

「ところで、次のネタなんだけど………」

 

 

▼『描写A:不滅の恋踏破の場合

「隅田川に出る『断髪の女性の幽霊』の噂があってね!」

「ぜひとも調査してほしいんだよね!」

 

▼『描写B:不滅の愛踏破の場合

「隅田川で『ハンチング帽を抱いた女性の水死体』が発見されたそうなんだ!」

「この奇妙な死体について、ぜひとも取材しに行ってほしいんだよね!」

 

 

 

この嫌な予感しかしない仕事を受けるか否かは、マスメディア探索者に委ねられるのであった。

 

 


■探偵探索者後日談

 

探索者の事務所に、報酬を渡すためにやってきた水馬がいる。

 

「随分と大変な依頼になってしまったようですね…」

「おかげさまで恋人との誤解は解けました」
「報酬ですが、少し色をつけておきましたよ」
「お受け取りください」

 

水馬は封筒を手渡す。

分厚い!本来の報酬の2倍は入っていそうだ。

 

「(探偵探索者)さんは素晴らしい探偵です」

「やはり身内の評判を信頼して正解でした」

「再び『うちの組』の依頼があればご贔屓に」

 

水馬はお礼を言って、颯爽と事務所を立ち去る。

 

 

★水馬の「身内」はヤのつく人たちのことである。もしかしたら探偵探索者の今までの依頼人の中に水馬の身内がおり、その評判が水馬の耳に入ったのかもしれない…。

 

 


■軍人探索者後日談

 

この事件により門限を大幅に超え駐屯地に帰って来た軍人探索者と瀬辺は、上官に殴られた上にこってり叱られる。

やむを得ない事情があったとはいえ、上官はそんなこと知ったこっちゃない。

陸軍駐屯地とはそんなものである。諸行無常。

 

「あり得ないくらいボコボコにされたな!!」

「全て俺のせいだ、申し訳ないッ!!!!」

 

瀬辺はその場で軍人探索者に直角のお辞儀をする。

軍人探索者は瀬辺を慰めるかもしれないし、怒るかもしれない。

どのような対応をしたにしろ、この事件を経て瀬辺は軍人探索者をより一層信頼することになる。

彼はたとえ無報酬でも、軍人探索者に惜しみない協力をするだろう。

 

軍人探索者はサプリメント「クトゥルフ2015」の特徴表「1-10:予期せぬ協力者」を獲得できる。

既に特徴を取得している場合でも、重ねて取得可能。

 

※効果が反映されるかどうかは、今後参加する卓のKPに委ねられることに注意。


 

 

 

嫉妬や渇望、恨み辛み、恋心と愛情、様々な思惑が絡んだ事件に巻き込まれてしまったあなた達。


事実は小説よりも奇なり。
新聞の記事にならないだけで、こういった事件は帝都中のあちこちで毎日起きているのかもしれません。
まあ、人に話したところで、脳病院に入れられてしまいますからね。

 
ここは100年前の大日本帝国。
今日も明日も、歴史に残らない奇譚が生まれる奇妙な大都市。

 
さて、次に宇宙的恐怖に狙われる帝都民は、いったい誰になるのやら……。

 

 

 


 

■報酬

 

・探索者が生還した:SAN1d10回復

・『三河ハナミ』が『K』を川へ引き摺り込んだ=SAN1d6+2回復

・神話技能+2%(星からの暗黒、ペトスーチ)

 

▼マスメディア探索者:写真術+5%、もしくはオカルト+5%(どちらか選択)

▼探偵探索者:信頼+5%、もしくはオカルト+5%(どちらか選択)

▼軍人探索者:特徴表「予期せぬ協力者」獲得

 

 


■あとがき

 

・探索者たちをこじれた痴話喧嘩に巻き込みたかった。

・マスメディアに「芸能人のゴシップ」というベターな取材をさせたかった。

・探偵探索者に「浮気調査」というベターな依頼をさせたかった。

・軍人探索者が見たかった。

 

 

・タイトルの意味

imperishable(インペリシャブル)を日本語っぽく発音したもの。永遠・永続・不朽という意味。ほとんど不死である真珠が中心となっているから、そして『(どんな形であれ)愛は不滅だよね!』という意味も込めて。

 

・イメージソング

椎名林檎さんの『サカナ』。かっこいい。

 

 

 シナリオの元ネタは、1930年に堀辰雄さんが執筆された『水族館』です。女学生同士の恋愛(エス)の文化は有名ですが、当時は文学家たちがこぞって同性愛研究をしていたらしいですね。それらからヒントを得て、同性愛者たちを主軸に複雑な人間関係のシナリオを執筆しました。真珠のモチーフは言わずもがな人魚姫です。

 このシナリオはNPCたちの人間関係が複雑ですので、PLないしは探索者がお互いに持っている情報のすり合わせをすることになります。

私自身が回したテストプレイでは「このNPCとあのNPCはこういう関係では?あの人物の正体は?」と、PLさんが考察して下さるのが楽しいセッションでした。どのような神話生物が関係しているのかというメタ予想して頂けたのも楽しかったです。

 明確な真相が明かされないイジワルなシナリオですが、真相が「他人の痴話喧嘩」という探索者的には本当にどうでもいい内容なので…(マスメディア探索者は痴話喧嘩情報を欲しがるかもしれませんが)「柳島アパートメント」と「陸軍駐屯地」はNPCの事情が分かるだけの探索箇所ですので、ぶっちゃけ行かなくても生還できます。

 APP14以上の10代男性探索者がいた場合、ハトヤのシーンが背景に薔薇咲き乱れる濃厚なBLになりそうですね。見たい。

 

オリジナルシナリオを外部の方が回せるように纏めた文章を執筆したのはこれが初めてなので、至らない点や分かりにくい点、不明な点が多々あるかと思われます。それでもこのシナリオを回して下さったKPさんが居たならば幸いです。感想やセッションログを頂けると大喜びします。

 

 

★スペシャルサンクス!

・テストプレイにお付き合いして下さったPLのみなさん

・最後までシナリオを読んで下さったあなた

 

 

 

■おまけ

タイトル画像とかNPC差分集とか。


 ※当シナリオの内容はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実際のものとは関係ありません。また、特定の思想・差別を支持するものではありません。

 

2020/02/28 シナリオ公開